元信託銀行員が語るこんな人は遺言を書くべき!生前に贈与をしているケース

2021/04/26 遺言

相続税対策として生前に子どもや孫に贈与をする方は多くいらっしゃいます。
確かに生前贈与は相続税対策として有効な手段です。しかし、生前贈与をしたことによって配分を再検討しておかなければ相続人間で争いに発展するケースがあります。
生前に贈与をするケースではどのような場合に遺言を書いておくべきなのでしょうか。事例を交えて解説します。

1.住宅取得資金贈与の特例を活用した場合

住宅取得資金贈与の特例とは子などが住宅を取得する際に親などが一括で贈与をしても一定金額まで非課税になる制度です。一括で大きな資金を贈与することができるため、相続税対策として効果も大きい特例です。住宅取得資金贈与の特例を活用したケースの事例をみていきましょう。

【相続人関係図】

【財産】
不動産:無し(介護付有料老人ホームに入居)
金融資産:3,000万円

【その他の状況】
長男は贈与された資金も使って被相続人が暮らす介護付有料老人ホーム近くに自宅を購入し、普段から日常の生活用品の購入などを手伝っていました。

この事例では長男には住宅取得資金贈与の特例を活用して1,000万円を贈与しています。被相続人である親が亡くなった際に長男は既に1,000万円の贈与を受けています。被相続人は長男と長女に平等に分けるようにと言っていましたが、長男と長女はどのように分けるのが平等なのでしょうか。

パターンとしては2つ考えられます。
①生前贈与は加味せず1/2ずつ相続する
長男:1,500万円(生前贈与と相続の合計額2,500万円)
長女:1,500万円(生前贈与と相続の合計額1,500万円)

住宅取得資金として長男が贈与を受けた1,000万円を加味せず法定相続割合通りに相続するパターンです。このパターンは長女が生前贈与を受けた資金は加味して相続財産を配分するべきだと主張する可能性があります。


②生前贈与をした1,000万円を加味して相続する
長男:1,000万円(生前贈与と相続の合計額2,000万円)
長女:2,000万円(生前贈与と相続の合計額2,000万円)

住宅取得資金として贈与を受けた1,000万円は相続財産を先にもらっていたものとして、相続財産は長女が多く相続するパターンです。この配分方法を選択した場合、長男が生前贈与と相続は別物だと主張する可能性があります。

上記の2つの分け方に正解があるわけではありません。
長男としては被相続人が住む介護付有料老人ホームの近くに住み、被相続人と頻繁に会っていたことや日常の生活用品の購入を手伝っていたことから相続の際は1/2ずつ相続することを主張する可能性があります。
一方、長女としては被相続人が介護付き有料老人ホームに住んでおり、長男が介護していたわけではないため、生前贈与の1,000万円も加味して財産を分割することを主張する可能性があります。長男も長女も「親がこう考えていたはずである」ということを感じて主張するケースが多いです。亡くなった方がどう考えていたかを聞くことはできません。財産の分け方を意思表示できるのは遺言のみです。財産を相続する子ども達が困らないように事前に遺言を書いておくことが重要です。生前にしっかりと意思表示を行っておくことで、このような財産争いを避けることができます。

2.孫に毎年110万円贈与をしていた場合

相続税対策で毎年110万円までの範囲で生前贈与を行っている方は多いと思います。子どもだけでなく、可愛い孫に贈与をしている方も多いでしょう。しかし、孫への生前贈与が原因で相続人間の争いに発展してしまうケースもあります。事例を交えて解説していきます。

【相続人関係図】

【財産】

不動産:無し

金融資産:4,000万円

【その他】

被相続人は相続対策も兼ねて毎年110万円を孫3人に贈与をしていました。

この事例では被相続人が相続税対策のために孫に年間110万円ずつ贈与をしていました。暦年贈与の非課税枠を活用して贈与をする方は非常に多いと思います。

今回の事例では、長男一家には孫二人、長女一家には孫が一人です。被相続人としては孫たちに平等にと考えて同じ金額を贈与していました。贈与を受けた資金は親が管理し、教育費等に活用しています。今回の事例では財産の分け方として3つのパターンが考えられます。

①生前贈与をしていた金額は加味せず、財産を1/2ずつ配分する

長男:2,000万円(孫が生前贈与を受けた金額との合計3,100万円)

長女:2,000万円(孫が生前贈与を受けた金額との合計2,550万円)

孫に生前贈与をしていたことは加味せずに、法定相続割合通りに長男・長女に1/2ずつ相続させるパターンです。このケースでは長女は一家単位で生前贈与を受けた財産と相続する財産を合計すると長男に比べて少ないため、不満に思う可能性があります。

②生前贈与をしていた金額を加味して長女が多めに相続する

長男:1,725万円(孫が生前贈与を受けた金額との合計2,825万円)

長女:2,275万円(孫が生前贈与を受けた金額との合計2,825万円)

孫が生前贈与を受けていた分は相続財産を先に受け取ったものだと仮定して、財産を配分するパターンです。生前贈与と相続は別物だと長男が考えている場合、相続財産が少ないことに不満に思う可能性があります。

③孫の数に応じて相続財産を配分する

長男:2,667万円(孫が生前贈与を受けた金額との合計3,767万円)

長女:1,333万円(孫が生前贈与を受けた金額との合計1,883万円)

孫の数に応じて財産を配分するパターンです。子どもを育てることは教育費などさまざまなお金がかかります。その負担に応じて財産を配分するということも一つの選択肢です。しかし、このケースでは長女は生前贈与も相続も受け取る財産が少なくなってしまうため、不満に思う可能性が高いでしょう。

3.生前贈与で差がついた場合は遺言の作成検討を

生前贈与は相続税対策として有効な方法です。しかし、節税を重視すると相続人間で差が付いてしまう可能性があります。生前贈与で差が付いた場合には相続人間で意識にずれが生じることがあります。

ほとんどの親は子ども達に「平等」、「公平」にと考えますが、受け取る人の価値観によってどれが「平等」、「公平」なのか、感じ方が異なります。

同じ家で育った兄弟でも社会に出て、別の家庭を持っている子ども達が必ずしも同じ価値観であるとは限りません。それぞれの選択に正解はありませんので、相続人が悩まないために自分はどうするつもりであったのかをしっかりと意思を示すために遺言を作成することが重要です。

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