自筆証書遺言の方式緩和でどう使いやすくなったの? 法務局の保管制度も解説

2021/04/26 遺言

自筆証書遺言とは、遺言書を作成する方法の一種です。

自筆証書遺言は遺言をする方が自分だけで遺言書を作成できるという手軽さが特徴ですが、自筆に手間がかかる、紛失や改ざんのリスクがあるなどのデメリットもありました。

しかし、自筆証書遺言の方式緩和と、法務局での保管制度という2つの制度が創設されたことで、より使いやすい制度として生まれ変わりました。

そこで今回は、自筆証書遺言の方式緩和と、法務局での保管制度について解説します。

1.方式緩和以前の自筆証書遺言の問題点

方式が緩和される以前は、自筆証書遺言は全文を遺言者(遺言をする方)が自筆する必要がありました。

従来の方式においいては、全文を自筆していない(遺言の一部を他者が代筆したり、パソコンで作成したりなど)場合は、自筆証書遺言としての効果が認められませんでした。

どのような遺言をするのか、遺言の内容を自筆するだけでも手間がかかりますが、財産が多い場合は全て自書しなければならず、さらに負担がかかりがちという問題がありました。

2.自筆証書遺言の方式緩和の内容

自筆証書遺言の方式緩和によって、「財産の特定に関する事項の記載」に限り、自筆でなくても有効な自筆証書遺言として認められるようになりました。

財産の特定に関する事項の記載とは、いわゆる財産目録のことです。財産目録とは、相続の対象となる遺産(相続財産)を一覧にしたものです。

方式緩和によって、パソコンで財産の特定に関する書類を作成したり、登記簿謄本の写しなど財産の証明となる書類を添付したりすることが可能になりました。

注意すべき点は、財産の特定に関する事項以外については、従来と同様に遺言者が全て自書しなければならない点です。

それ以外の遺言事項(誰に何を相続させるかなど)を自書以外の方法で記載してしまうと、自筆証書遺言としての効力が認められないので注意しましょう。

3.方式緩和が適用されないケース

自筆証書遺言の方式緩和は、2019年1月13日に施行されました。

注意点として、2019年1月13日よりも前に作成された自筆証書遺言については、方式緩和は適用されません。

遺言の効力が発生するのは、原則として遺言者が死亡して相続が発生した時点です。

ところが、基準になるのは自筆証書遺言の作成日なので、相続開始日が施行日以降であっても、遺言の作成日が施行日よりも前の場合には、方式緩和が適用されないのがポイントです。

たとえば、自筆証書遺言が作成された日が2019年1月12日(施行日前)のケースで考えてみましょう。

被相続人が2019年1月14日(施行日後)に亡くなった場合、遺言の効果が発生するのは被相続人の死亡時です。

しかし、自筆証書遺言が作成されたのは施行日よりも前なので、この自筆証書遺言には方式緩和は適用されません。

その結果、もし緩和以前の方式を満たしていない場合(財産目録が手書きでないなど)は、自筆証書遺言としての効力が認められなくなってしまいます。

4.自筆証書遺言の法務局での保管制度とは

法務局での保管制度とは、自筆証書遺言を法務局で保管してくれる制度です。保管制度を利用すると、自筆証書遺言を自力で保管しなくてもよくなります。

自筆証書遺言の保管制度は2020年7月に開始された制度で、同年同月に施行された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律に基づいています。

5.保管制度が創設される前の自筆証書遺言の問題点

法務局で遺言書を保管できる制度が創設される以前は、自筆証書遺言を保管する方法は遺言者が決める必要がありました。

弁護士や司法書士など、遺言の管理を担当する士業などに遺言書の管理を依頼することもできますが、費用が発生します。

そのため、遺言者が自宅で自筆証書遺言の遺言書を保管するケースが少なくありませんでした。

自分で遺言書を保管する場合、引っ越しや片付けなどでどこに保管したかわからなくなってしまい、遺言書を紛失してしまうリスクがあります。

また、自筆証書遺言に記載された内容が気に入らない相続人候補などによって、遺言書が破棄されたり、内容を改ざんされてしまったりしやすいという問題点もあります。

自筆証書遺言を紛失したり破棄されたりした場合、遺言書自体が存在しないので、その遺言は効果が生じなくなってしまいます。

遺言者が生存していれば新しい自筆証書遺言を作成することができますが、遺言者が亡くなった後で紛失や改ざんが判明した場合、もはや新しい遺言書を作成することはできません。

有効な自筆証書遺言が存在しない結果、遺産をどのように相続するかについて、相続人同士の争いになってしまうリスクが生じます。

6.法務局での保管制度のメリット

法務局で自筆証書遺言を保管できることによって、以下のようなメリットがあります。

(1)遺言書の紛失や破棄を防止できる

遺言書を自分で保管した場合、紛失したり破棄されたりする可能性があります。

法務局で自筆証書遺言を保管してもらえば、自分が遺言書を紛失してしまったり、第三者によって遺言書を破棄されてしまうリスクを防止することができます。

紛失や破棄などによって、せっかく作成した自筆証書遺言が無効になってしまうリスクを防止することで、自筆証書遺言の制度をより利用しやすくなります。

(2)遺言書の所在を把握しやすくなる

自筆証書遺言を遺言者自身が保管すると、遺言が保管されている場所を家族などの他者に伝えておかなかった場合、誰も遺言書がどこにあるかを把握できません。

たとえば、「自分になにかあった場合に備えて、遺言書を作成しておいた」と家族に伝えたものの、その場所を教える前に容態が急変して亡くなってしまったなどです。

上記のケースにおいては、遺言書があること自体は家族が把握していますが、遺言書がどこにあるかはわからないので、遺言書が見つからなければ自筆証書遺言の効力が認められません。

保管制度を利用すれば、法務局に照会することで遺言書の所在を把握できるようになります。

7.方式緩和と保管制度を有効に活用しよう

従来の自筆証書遺言は、財産目録などの長くなりがちな項目も全て自書しなければならない、紛失や破棄などのトラブルが多い、などの問題点がありました。

自筆証書遺言の方式緩和によって、財産目録などの財産の特定に関する事項については、自書でなくても有効な遺言書として認められるようになり、自筆証書遺言を作成しやすくなりました。

法務局による保管制度を利用すると、自筆証書遺言を自分で保管しなくてもよくなり、遺言書の紛失や破棄などのトラブルを防止することができます。

より身近な遺言方法になった自筆証書遺言を、一度検討してみてはいかがでしょうか。

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